吸血鬼の手帖

吸血鬼の館††幻想館†† 管理人"悠貴"による吸血鬼関連作品感想手帖。
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† 呪われた町(下)

原題:'Salem's Lot
作者:スティーヴン・キング(Stephen King)
訳者:永井淳
発売:集英社 集英社文庫
初版:1983年06月25日
原語版初版:1975
価格:460
頁数:369
 アメリカの田舎町。丘の上の不吉な霊にとりつかれたマーステン館に蘇った吸血鬼。
 不可解な死者がふえるたびに町には血の臭いが流れる。
 姿を見せぬ吸血鬼と恐怖におののきながら人々は対決するが……。最悪の事態は刻々と迫る。
“永遠の不死”という宿命を背負った吸血鬼によって崩壊していく町を迫真のリアリティで描く最新恐怖小説。
 煽り文の「最新」が違和感ばりばりですが、まぁそういう細かいつっこみはおいといて。

 大まかな流れは『吸血鬼ドラキュラ』とそんなに変わりないのに、こっちの方が確実にホラー。

 上巻とは打って変わって、雪崩に飲み込まれるように町が、人々の平穏な生活が崩壊していきます。
 犠牲者が1人では誰も吸血鬼なんて想像しない。2人に増えても同じ。4人、疑いを抱いた人自身、自分を信じられず、8人、16人、32人――
 鼠算式に増えていく犠牲者。
 信じたくない現実を現実だと認めざるをえなくなった時には、もう手遅れ。
 上巻の平穏さゆえに、下巻の薄ら寒い恐怖と無力感が増大し、もしかしたら読者である自分のそばでもこんなことが起こり得るのでは? という馬鹿げた考えがチラッと脳裏を過ぎるのです。
 馬鹿げているじゃありませんか!
 吸血鬼なんているわけがないし、十字架で退散させたり、心臓に杭を打ち込むなんてホラー映画の見すぎじゃないかい?

 そう信じていた登場人物たちがどうなったのか、言うまでもありません。

 なんて事を考えるのはホラー小説の読みすぎなのであり、そんなこと現実にはありえない……と、いくらでもループできるのが、このホラーの一番怖いところなのかも。

 それにしても、久々に「怖い」吸血鬼を感じられて楽しかったです。って、なんか表現が矛盾してますけど。
 この話に出てくる吸血鬼はひたすらに「怖い」。
 勿論、怪力を持っているとか、見つめた相手を操れるとか、そういう能力的な部分での怖さもあるんですが、そういうのを抜きに怖いのです。
 今、吸血鬼を取り扱った作品は山のようにあり、恐ろしいくらいに強い吸血鬼ならいくらでもいる。
「強い吸血鬼の名前を挙げてみて」
 と言われたら、ポンポンと出てくる。多分、私でなくても、吸血鬼作品が好きな人なら同じでしょう。
 でも、純粋に「怖い」かどうかと問われると、首を傾げてしまうものが多いのも事実。
「こいつはこんなに酷い悪役だけど、きっと過去にあんなことやこんなことが」
 というような余分なことを考える間もなく、引きずられるように最後まで読めるのは、人間らしさだとか、後悔だとか、苦悩だとか、そういう「こちら側」が「あちら側」に親近感を覚える要素が省かれているからこそ、だよね。多分。
 人間っぽい吸血鬼が好きな私ですが、たまにはこういうのも良いです。と思うくらい傑作です。

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